A型肝炎
A型肝炎ウイルス(HAV)が原因となって発症するウイルス性肝炎です。ウイルスに汚染された食物を食べることによって伝染します。経路としては、ウイルス保菌者が調理したものを食べたり、水中に排出されたウイルスを食べた貝類を生で食べてしまったりして感染するケースが挙げられます。 感染から発症までは4週間程度の潜伏期があり、発症後は急性肝炎の特徴的な症状である、発熱、頭痛、倦怠感、黄疸、腹痛などが生じます。
発症者は原則的に入院の措置がとられ、安静に寝ている必要がありますが、適切な治療を施せば数週間の入院で治癒する場合がほとんどであり、後遺症もほとんどみられません。また、感染後は強い抗体をもつことができます。ただし、高齢者などは免疫力が低下しているため重症化のリスクがあり、劇症化も稀に起こり得るため注意しなくてはなりません。 感染報告は年間500例程度と少なく、これは日本の衛生状態が良好であることによるものです。
また、感染報告の1割程度は海外渡航者という統計があります。一方、感染報告が少ないということは、抗体保有者が非常に少なくなっているということも意味します。そのため、発症例の多い東南アジアなどに旅行する際は、ワクチン接種を受けることがお勧めです。
B型肝炎
B型肝炎ウイルス(HBV)が原因となるウイルス性肝炎です。感染経路としては、性行為などの密接な接触、粘液や血液の傷口への接触、静脈注射などのほか、母子感染などが挙げられます。 このウイルスに感染してしまうと、基本的にウイルスを体外に追い出すことはできません。成人になってから感染すると一過性の急性肝炎を発症しますが、ほとんどの場合自然治癒します。
感染から発症までは1ヶ月から半年程度の潜伏期があり、症状としては食欲不振や嘔吐、黄疸、褐色尿などが現れます。軽症であれば対症療法を行いますが、激症肝炎の恐れがある場合は、抗ウイルス療法や血液交換といった治療を実施するケースもあります。 一方で、母子感染や幼児期における感染の場合、感染状態が持続し慢性化します。この場合重症の肝炎になる可能性が高く、また肝硬変や肝臓がんのリスクも高まります。
そのため、慢性B型肝炎の治療としては、インターフェロンなどを使って肝炎を発症させないようにする抗ウイルス療法を実施するほか、定期的な経過観察を実施します。
C型肝炎
C型肝炎ウイルス(HCV)が原因となるウイルス性肝炎です。HCV感染者の血液や体液などを介して伝染します。日本における感染経路の例としては、輸血や透析などからの感染、消毒が不十分なままピアスをあけたことによる感染、注射器を使い回したことによる感染などが挙げられます。日常生活ではほとんど感染のリスクはありません。
一度感染すると7割から8割が持続感染となる一方、自覚症状はほとんどありません。そのため、感染に気づかないままだったり、気づいても放置してしまったりするケースが多くありますが、適切な治療を受けないと30年後には肝硬変を、40年後には肝がんを発症するといわれています。 HCVは体内から排出できるウイルスです。治療としては薬物療法が中心で、インターフェロンを用いてウイルスを排除し、肝機能の維持・保護を図ります。
なお、インターフェロン治療は副作用が強いことや、費用が高額なことから、ハードルの高い治療といわれていましたが、直接作用抗ウイルス剤が保険適用されたことにより、近年はインターフェロンを使用しない治療も受けやすくなっています。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
脂肪肝はアルコールの多量摂取によって発症リスクが高くなる疾患ではありますが、お酒を全く飲まない、あるいは少量しか飲まない場合でも脂肪肝を発症するケースがあります。これを非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)といい、メタボリックシンドロームとの関連が指摘されています。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、NAFLDのうち脂肪肝炎を起こしてしまったもののことです。自覚症状がほとんどないため放置してしまうことも多く、肝硬変や肝がんなどの発症につながるケースが多くみられます。
NASHであるかどうか調べるためには、肝生検という肝臓の細胞を直接採取する検査を実施しなくてはなりません。治療としては、メタボリックシンドローム解消のための生活指導が中心となります。肝炎が進行してしまっている場合は、薬物による治療を実施するケースもあります。
脂肪肝
脂肪肝とは、中性脂肪が異常に増え、肝臓に蓄えられてしまっている状態のことをいいます。肝臓の細胞の30%以上が脂肪になっている場合、脂肪肝と診断されます。 血液中に含まれる脂肪の一種である中性脂肪は、身体の中でエネルギーとして働きます。しかし、中性脂肪が増え過ぎてしまうと動脈硬化などの疾患を引き起こす原因となります。
脂肪肝はほとんどの場合、自覚症状が現れないため、定期健康診断や人間ドックなどで初めて判明するケースが多くあります。腹部超音波検査やCT検査などの映像検査が用いられますが、これらの検査で明確に確認することができます。脂肪肝を放置するとゆっくりと進行し、肝炎を経て肝硬変を起こす恐れが高まるため、注意する必要があります。
また、メタボリックシンドロームに当てはまっているケースが大半のため、動脈硬化、糖尿病、高血圧、脂質異常症などのリスクも高い状態であることが多いです。 アルコール類の飲み過ぎが原因として主に考えられていますが、アルコール類をほとんど飲まない人でも脂肪肝を発症する「非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)」が近年増加傾向にあり、問題となっています。
また、ステロイド剤の服用など、脂肪肝の原因にはそのほかの事例も明らかになっています。 食事療法、運動療法などの生活習慣の改善が、治療の上で一番のポイントです。また、メタボリックシンドロームにより糖尿病などの合併症がある場合は、並行してそれらの治療も実施します。そのほかにも、薬物療法としてビタミンEの服用も効果的とされています。
肝硬変
肝臓の病気は、初期段階では自覚症状がない場合が多く、進行するまで病気に気づかない傾向にあります。そのため、肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれています。しかしながら、肝臓に起こるさまざまな慢性的疾患が放置され、病状が進行すると、肝硬変が引き起こされます。
肝臓の炎症が長期間繰り返し発生し続けると、肝臓の細胞は壊れ、代わりに肝臓の機能をもたない細胞が徐々に生じます。この状態を繊維化といいます。肝硬変とは、この繊維化が進行し、肝臓表面の柔軟性が失われゴツゴツとした状態になってしまうことをいいます。 まだ健康な肝臓細胞が残っている初期段階では、肝臓の機能は保たれているので自覚症状が現れることも少ないです。
しかし病状が進行し健康な細胞が減少すると、腸と肝臓をつなぐ静脈の血流が妨げられ、腹部の静脈圧が上昇します。その結果、血管が膨れ上がり、胸に蜘蛛の巣のような血管が浮かんでくるという特徴的な症状が現れます。肝不全の状態に陥ると、腹部に水が溜まる、肝性脳症を発症し異常行動を起こす、食道静脈瘤が破裂して大量に吐血するなど、重篤な症状が現れます。
日本における肝炎の原因として多いのはC型肝炎ウイルスとB型肝炎ウイルスであり、患者数の75%程度がこれに当てはまります。続いて、アルコール性肝炎が多くみられる原因として挙げられます。 医師による診察、腹部エコーやCTなどの画像検査で診断が可能ですが、生検により肝細胞のサンプルを採取する必要がある場合もあります。
肝硬変は、肝不全を引き起こす恐れが非常に高いのみならず、肝臓がんにつながることも多く、早期発見・早期治療が特に重要な疾患といえましょう。